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クライストチャーチ地震の地質背景 [研究]

今回のクライストチャーチ地震に伴い,大変多くの方が当ブログに訪れて下さっています.
特に昨年9月の地震の際に書いた記事にアクセスが集まっていますが,リンク元を辿りますと一部の方々に当ブログの内容が上手く伝わっていないようですので,改めてクライストチャーチ地震の地質学的な説明をさせて頂きます.
(恐らく日本でもTVなどで専門の先生が説明されているとは思いますが)

まず,今回の地震はアルパイン断層が動いたものではなく,クライストチャーチ近傍の内陸活断層が活動したことに由来するものです.昨年9月にクライストチャーチから約40 km離れたダーフィールドで発生したマグニチュード7.1の地震の余震と考えられますが,両地震ともアルパイン断層と直接連動するものではありません.

この地域には明瞭な活断層地形は認められていなかったので,比較的活動度の低い断層が動いたと思われます.最終氷期以降に砕屑物で埋められた平原上に断層が見られないと言うことは,1万年程度は動いていなかったと考えられます.
未知の活断層が活動したとの報道がありましたが,それはその通りですが,この程度の活動度の断層を事前に認知することはかなり難しいと思います.

一方,アルパイン断層は,ニュージーランド南島の東側を走る大断層で,太平洋プレートとオーストラリアプレートのすれ違い境界に対応する非常に活動度が高い断層です.過去100年間にもマグニチュード7を越える地震が数回以上起きており,とても危険な断層です.こちらに来る前は,ニュージーランドで地震があるとしたらこのアルパイン断層の地震だろうと思っていました.まさかクライストチャーチで地震に遭うとは全く想定してませんでした.

AF.jpg

今回のクライストチャーチ地震に話を戻します,
昨年のダーフィールド地震以降の余震分布を見ますと,分布域が東西に広がっていることが分かります(下図).余震の発生域には,応力の解放に伴って本震の場所から徐々に広がっていく傾向が見られることがあるそうですが,今回はまさにその傾向が見てとれます.そして,その分布域の東の先にはちょうどクライストチャーチ市がありました.

quakemapfeb2011.jpg

従って,今回のクライストチャーチ地震の規模は想定より大きかったことは間違いありませんが,クライストチャーチ直下で地震が起きる可能性は大きかったと言えます.
実際に,僕がまだクライストチャーチに住んでいる頃も,クライストチャーチ近傍で余震が起きることが多く,また本震より一ヶ月以上経ってからも何度もかなり大きめの余震(M5クラス)が起きていたこともあり,クライストチャーチ直下の地震発生の可能性を心配していた人も多かったと思います.

液状化については,以前も紹介していますのでリンクのみを張っておきます.
液状化:クライストチャーチ地震続報3
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コメント 5

獣の父

ボクシングデーの余震などGeoNetのサイトで震源がWithin5km of Christchurchっていうのがだんだん増えてきている事実を学者さん達はどう考えていたのか、ちょっと興味があります。
by 獣の父 (2011-02-28 18:40) 

MANTA

ご家族、お知り合いともご無事とのこと、ヨカッタとは言えませんが、
とりあえずホッとされていることかとお察しします。

地震については余震活動を単純にみていても、将来どこで大きな地震が起きる
かは殆どの場合わかりません(伊豆のように地震活動も活発で、過去の経緯
がよく分かっている場合は除きます)。今回もちょっと不思議なところで地震が
起きていたそうですが、今後の研究の新たなヒントにはなるかもしれませんが、
予測は非常に困難かと思います。私見で失礼いたしました。
by MANTA (2011-02-28 23:51) 

paleomagician

コメントありがとうございます.
また色々ご心配頂き,ありがとうございました.

MANTAさんの仰るとおり,余震の規模,位置,時期を予測することは非常に困難だと思います.ただ,今回は余震域が徐々に東に広がっていたこと,そして(大きな)余震が収束してこなかったことを考えると,クライストチャーチ直下地震の可能性についてもう少し注意を払うべきだったと自戒も込めて発言しました.
一方,僕の元同僚を含むこちらの専門家は,9月の地震の後かなり早い段階で安全宣言(と取れる)を出していました.その為もあり,市の行政は耐震対策ではなく,復興(つまりはワールドカップの準備)に集中してしまった様に思われます,特に根拠がある発言ではなかったので,その点については今後検証すべきことかと思います.
(そもそもカンタベリー大の専門家は第四紀地質学者や構造地質学者で,僕と対して変わらない専門度合い?です.その為か,今回の地震では彼らはそれほど表にはでてきません)
by paleomagician (2011-03-01 05:02) 

MANTA

なるほど、そういうことでしたか (徐々に東に広がっていた+カンタベリー大の
専門家は第四紀地質学者や構造地質学者)

私も神戸の地震ではずいぶん悔しく辛い思いを致しました。
研究とは長く時間がかかる上に不確定な結果しか出せないものです。
でもやるしかない。
by MANTA (2011-03-01 20:03) 

paleomagician

すみません,誤解を招く書き方でした.

そうですね,僕の研究対象は地震ではありませんが,やはり長い時間がかけてもナカナカ満足いく結果にたどり着けません.でもやるしかないですよね.少しでも前に進むためには.
ありがとうございました.
by paleomagician (2011-03-02 04:56) 

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